若き杜氏田中政之氏が目標に掲げる「飲んだ方の心に残る酒造り」は「淡麗辛口」とは一線を画する、ふんわり包む優しく上品な香りと酒本来が持っている豊かな旨味、口に含んだときに感じるコクとキレ味が抜群に良くまる味が感じられる酒質に見事に仕上がっております。美の川酒造(みのがわ酒造)。日本一の長流「信濃川」の流れに沿って、新潟県長岡市の城下町にて「美濃屋」の屋号にて酒造りを始めた歴史ある造り酒屋さんです。酒造り一筋に歩んできた美の川酒造さんは、創業以来「お客様に美味しいお酒を楽しんでいただきたい。」を企業理念とし、常に市場の声を聞きながら、「品質と価格」のバランスのとれた酒造りを目標に励んでおられる酒蔵さんでもあります。創業は文政10年(西暦1827年)。時は江戸時代、町づくりを引き継ぎ長岡藩を創始する事となる後の譜代大名、牧野忠成をはじめとした三河武士集団とともに、この長岡に移り住んだ「美濃屋」を名乗る商家によって、酒造業を創始したことが美の川酒造の始まりとなります。かつての屋号である「美濃屋」からもわかるように先祖は美濃、つまり現在の岐阜県の出身だったそうです。なぜ、美濃の商家が雪深い越後長岡にやってきたのか。それは牧野忠成との古い関係からだったと思われます。牧野家はもともと東三河、現在の愛知県の出で、現在の群馬県前橋市、新潟県の上越地方の役を経て、現在の新潟県長岡市に入りました。その時に、代々牧野家に重用されていた「美濃屋」も、同じ長岡に移り住み、それからは近隣町村の徴税を預かる庄屋を兼ねた役目を与えられ「殿様酒屋」とも称されていたそうです。事実、美の川酒蔵館に納められている品からは、長岡藩11代藩主直筆の掛け軸や、殿様の野外酒燗器など、長岡藩との交流を証明する家宝や昔の酒造用具が存在しており、藩主の信頼厚い御用商人の暮らしを垣間見ることができます。文化財級のものが多く展示されたこの蔵からは歴史や文化などへの興味が一層湧いてくる程です。美の川酒造の酒造りにおいて一番の特徴となる事と言えば新潟県で唯一「雄町米」を使用している事が挙げられます。「雄町米」とは様々な種類がある酒造好適米の中の一つで、栽培の難しさゆえに「幻」とまで言われた酒米であります。さかのぼる事約30年前、当時の美の川酒造の当主がこの酒米に魅せられ、是非この雄町米で酒造りを行いたいと熱望しました。当時、この酒米は岡山県の限られた地域でのみ栽培される酒米であり、この雄町米の種籾は非常に入手が難しい門外不出の酒米であった為、やはり断られてしまいました。当主はそれから何度も岡山県へ足を運び、栽培農家の方々と話をし、酒造りへの情熱を語りながら苦労を重ね、やがて、その気持ちが心を動かし、昭和61年のある日雄町米の種籾が送られてきたそうです。限られた生産量の中で、酒米を分ける余裕はないが、新潟で雄町を栽培してみてはどうか、ということだったそうです。ここから、新潟での雄町栽培の挑戦が始まりました。当時、新潟県内では栽培実績のない程、栽培が難しいお米でした。栽培が難しい雄町は、通常の食用米などのコシヒカリよりもさらに20cm程背が高く、収穫の時期が10月中旬頃と遅いため、秋の短い新潟では栽培が容易ではありませんでした。稲の背丈が高いと台風や大雨によって倒れやすく、また病気になりやすいため、岡山から譲り受けた雄町の種籾は当時の杜氏と工場長の田んぼで、また、美の川酒造の社員たちの手によって大切に栽培されました。その後、三年間の実験栽培を経た後、高度な技術を持つ契約栽培農家の方々によって品質向上を重ね、新潟の刈羽郡小国町と三島郡越路町で良質の「雄町米」が収穫されています。現在、美の川酒造で酒米として使用される雄町は長岡市内の契約農家でほぼ栽培されており、全国新酒鑑評会の大吟醸出品酒においても新潟産雄町米を使用した大吟醸にて出品しております。雄町は新潟県の酒蔵で多く使われている五百万石に比べ精米時の水分調整が難しく、酒米の状態を見極めるには熟練した杜氏の勘のみがたよりになります。それから平成13年の鑑評会では、出品酒の多くが山田錦(酒米名)を使用している中で、それ以外の米で仕込んだお酒というのはほとんどなく、金賞受賞においては全国で僅か6蔵しか金賞を受賞できておりませんでした。その6蔵のうちのひとつが美の川酒造の大吟醸であり、その翌年も雄町米にて醸した大吟醸酒が金賞を獲得し、3年連続で金賞を受賞という快挙を成し遂げております。現在、約一千石弱の造りの中、昔ながらの手造りの部分を多く残し、自社敷地内から湧き出でる信濃川伏流水“冽泉水(れっせんすい)”や“荒澤岳の湧水”を使用し酒造りを行っております。これらの水は鉄分が極めて少なく、さらに酵母の増殖や醗酵に必要なカルシウム、リン酸などを含んでおり、 酒造りに最適な水だといわれます。仕込みタンクは最大でも1t までの小さなタンクを使う事で、細部まで神経が行き届くよう丁寧な酒造りを行っています。若き杜氏田中政之氏が目標に掲げる「飲んだ方の心に残る酒造り」は「淡麗辛口」とは一線を画する、ふんわり包む優しく上品な香りと酒本来が持っている豊かな旨味、口に含んだときに感じるコクとキレ味が抜群に良くまる味が感じられる酒質に見事に仕上がっております。
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